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『罪の終わり』東山彰良 感想

超大好きな東山彰良さんの中でもとりわけ超大好きな作品。再読しました。
この方が書くほんのひとことふたことの涙腺破壊力が私の中で最強なので、うかつに外では読めません。

先に書かれた長編『ブラックライダー』の対になる作品。
時代は遡り、『ブラックライダー』で伝説として語られていたナサニエル・ヘイレンに関するノンフィクションという体裁の小説です。
とても読みやすく、同時に重厚さも群を抜いています。

 

以下ものすごくネタバレ。

 

 

望まれない形で生を受けたナサニエルは、不在がちで堕落した美しい母親と障がいを持つ兄を持ち、不遇の少年時代を送ります。しかしなのか、だからこそなのか、彼の命が放つ光は清冽で鮮烈で目が痛いほどです。(この光は『僕が殺した人と僕を殺した人』でも顕著でした)
運命は悪いほうに回り、ナサニエルは兄と母を手に掛けて囚人になります。
その頃地球にはナイチンゲール小惑星が接近していました。衝突を防ぐため核で迎え撃ったものの、地球の大半が壊滅状態となった<六・一六>。ナサニエルはこれを機にシンシン刑務所を脱け出し、彼を崇拝する食人鬼のレヴンワースと共に、長い旅に出ます。
荒れ果てた世界では、極度の食糧難のあげく人肉食が行われはじめ、人々の精神が蝕まれていくさなかでした。
書き手であるネイサンは脱獄した重犯罪人を追っており、レヴンワースがターゲットでした。追跡する中でナサニエルを知り、彼が人々によってどのように語られているか、またそれがどのように変化していくかに興味を抱きます。

 

まずはなにしろめちゃくちゃ面白いのです。
ナサニエルの生涯という軸のストーリーはもちろん、文明崩壊後の世界観、一癖も二癖もある登場人物たちの(犬含む)生き生きとした姿。三本脚のカールハインツの声なんか本当に耳に届いてきそうです。それらを描き出すクールな文章こそ、小説の醍醐味。一気読み必至です。

そして同時に、重く重くて重い。愛すること、生きること、死ぬこと、殺すこと、信じること赦すこと救うこと、罪そして贖罪、あらゆるものが読んでいる私に容赦なくのしかかってきます。読んでしまったら昨日までと同じようには生きれない、そんな稀有な作品です。
とりわけ、14章の「湖上を歩く(あるいは自己正当化の「メカニズム」に関する考察)」には、ネイサンが考えたことが――つまり作者が書こうとしたことと捉えていいように私は考えていますが――凝縮されています。たとえ何度読み返したところで、読み足りることはないだろうと思います。

今回再読して、ニモが一度ならず目にした光が気にかかかったこともありますし、引っかかりが薄れないうちにまた読みます。

 

 

罪の終わり (新潮文庫)

罪の終わり (新潮文庫)