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『カメラ・オブスクーラ』ナボコフ 感想

ネタバレありの感想です。

 

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妻子を持ち、穏やかで裕福な暮らしを送っている主人公のクレッチマーは、映画館の案内係である16歳のマグダに一目惚れ。マグダはマグダで、クレッチマーの人脈と財産に魅力を感じたとみえ、ふたりは恋愛関係を持つに至る。
しかしわがまま放題のマグダのせいで、関係はクレッチマーの家族にばれてしまい、クレッチマーはマグダと暮らし始める。
そこに、クレッチマーと出会う以前にマグダの恋人であったホーンが現れ、二人はよりを戻すが、クレッチマーは気づかない。三人の関係はなんとも歪に絡み合いながら運命は進んでいく。


以前に借りて読み面白かったのを思い出し、購入して再読。
ナボコフはまだこの一冊しか読んでおらず、やはり敷居が高い印象があります……が、少なくともこの作品に関しては、構える必要はいっさいないと思います。いっそ俗っぽいと言ってしまえるようなストーリーは、これは私の偏見を大きく含むけれども昭和時代のテレビドラマ的だな、と。

しかしただ読みやすく面白いだけではなく、心理描写の数々などはそうそう出会えない素晴らしさで、あまりの的確さと表現の美しさにしばしばハッとします。たとえば、朝早く出かけようとしたクレッチマーの気が変わる場面など。
私にとっては共感など到底できない人ばかりですが、この人がこう感じてこういう行動をしたという一連が、まったく無理なく理解できてしまう。およそ罪悪感と縁のないホーンのでさえ解るし、盲目のクレッチマーが感じているものも解る。「人間が描かれている」などと手垢な表現はしたくない気持ちはあるものの、これはまさにその極致だと思いました。

そうそう、大抵の登場人物を好きになれませんでしたが、小説家のゼーゲルクランツは密かに好きでした……。

ナボコフの他の作品も読んでみたいです。